みやけエコネット

ノートガクアジサイの葉はつるつる

- みやけエコネット編集部員・山下聡子のお初三宅島体験記 -

三宅島に行くことになりました。

体験記写真三宅島といえば、5年前の噴火とその後の一連の報道にはたびたび接していましたが、それ以前から、実は気になる島でした。
佐渡に拠点を置く和太鼓の演奏グループ「鼓童」のレパートリーに、「三宅」というタイトルの曲があります。三宅島の伝統芸能「木遣り太鼓」をアレンジした楽曲で、2人の打ち手が床に置いた太鼓を挟み、交互にリードを取りながら、静から動への昂ぶりを鮮やかなバチさばきで魅せる人気曲。数年前、仕事で鼓童の方々とご一緒したとき、私はこの曲にシビレたのでした。北海道や沖縄に独特の民謡や音楽が育つのはなんとなく想像できるのですが、住所でいえば東京都である伊豆諸島の島に、こんな正統派な伝統音楽があったとは。

そんな不意打ちの音楽を育む三宅島の自然とは、いったいどんなものなのでしょうか――。

外海の洗礼

2005年4月21日午前6時。前夜に東京・竹芝桟橋を出発した「さるびあ丸」は、予定より40分ほど遅れて三宅島・三池港に到着しました。

体験記写真「港付近の火山ガス濃度は、現在レベル3」

早速、ガスマスクを着用してくださいとの船内アナウンスです。前の夜に一度練習したはずなのですが、ヘッドバンドがずり落ちてなかなか上手くつけられません。何しろ、昨夜の伊豆諸島付近は低気圧が通過中で、海は大荒れ。一晩中遊園地のアトラクションに乗っていたかのような上下左右の揺れの余韻に、頭を起こしていることがそもそも大変つらいのです。

何とか着用して船を下りると、目の前に広がったのは、木々がすっかり立ち枯れて白っぽくなった山の風景――。そう、ここは火山ガスの放出で、4年半ものあいだ人々が暮らすことのできなかった火山島。

足はよろよろ、背中は緊張。でも、本州を離れて島にやってきたということだけで、ココロのスイッチは無条件に“ON”!

元気な緑と光る海

体験記写真レンタカーのバンに乗りこみ、とりあえず宿に向かいました。港を離れるにつれ、窓の外に見える木々が、あれよあれよと元気な葉をつけた緑の木に変わっていきます。「三宅島観光セーフティーガイドマップ」なる地図を広げてみると、火山ガスの高濃度地区に指定されているのは、港周辺の坪田高濃度地区と、南西の阿古高濃度地区の2つ。それ以外の地区では、火山ガスの影響は意外と少なく、木々も元気に葉を繁らせている、ということのようです。

地元の方の車に次々と追い越されながら、「ああ、三宅島の車は品川ナンバーなんだなあ」などと思っていると、昨夜の大揺れ体験でふわふわしていた頭の焦点がだんだんと合ってきました。

ふと左を見ると、そこには水平線の向こうまでぽこぽこと白波を立てる真っ青な海が、きらきらと横たわっていました。 ああ、ここはまさに太平洋に囲まれた島なのだ---。

なんだかわくわくして前に声をかけようとするも、助手席に沈むスタッフの小森さんは、いまだつらそうに頭を垂れ、胸をさすっていたのでした。

アカコッコ館に到着!

今夜のお宿、阿古地区の「サントモ」さんでおいしい朝食をいただき、一休みしたあと、早速今回の旅の目的、三宅の自然体験ツアーに出かけるべく再び車に乗りこみました。向かった先は、「三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館」。ガイドをしてくださる山本裕さんは、ここのチーフレンジャーさんです。

体験記写真アカコッコ館は、野鳥をはじめとする三宅島の自然の魅力発信の拠点として、1993年にオープンしました。三宅島の水がめである大路池(たいろいけ)に近い森の中に、本館、視聴覚棟、学習棟を備えた立派な施設で、フランク・ロイド・ライト風の木造平屋の造りが、周囲の森になじんでいます。2000年8月の噴火にともなう全島避難で、このアカコッコ館もその後4年半のあいだ閉館を余儀なくされたとのこと。今は、再開に向けて山本さんが館内の整理などを進めているのだそうです。
(注:アカコッコ館は2005年7月22日に運営を再開しました)

野鳥と植物のサンクチュアリ、大路池を歩く

体験記写真いよいよ出発。
「では、まず大路池から歩きましょう」

日本野鳥の会のレンジャーとして在三宅約10年の山本さんは、さすが、デイパック・ウエストポーチ・登山靴というアウトドアスタイルがキマッています。

大路池への小道を下る途中、三宅島でよく見られる植物を、山本さんがその都度足を止めて教えてくださいます。

フウトウカズラ---へえ、オスとメスがある植物なんて面白い。
ウラシマソウ---浦島太郎が竿をかついでいる姿に似てるから、とはなんて粋なネーミング。
ガクアジサイ---本州でよく見るアジサイは、このガクアジサイの改良品種だったんだ。

「タマアジサイの葉は表面がざらざらで、ガクアジサイはつるつるなんです」

触ってみると、確かに感触がまったく違います。花を見る前にその種類を言い当てられることに妙にうれしくなり、以後、アジサイを見つけてはコシコシと葉を触ってしまいました。 大路池は、2500年前の噴火でできたといわれる、周囲2.1km、深さ約15mの淡水の池。周りをぐるりと森に囲まれたオアシスのような水場ですが、山本さんによると、ここも火山ガスの影響で若干木々の葉が落ち、以前よりも明るい森になったそうです。

体験記写真池の水面から、真っ白なダイサギがふうわりと羽を広げて羽ばたきました。

倒木をくぐったり、道が寸断されて崖のようになった斜面をよじ登ったりしながら、1時間半ほどかけて大路池を1周。ちょっと大袈裟かなと思いつつ、登山靴を履いてきたのは正解でした。汗をかきかき風に吹かれて森の散歩を楽しむあいだ、高くてよく通る、それでいて力強い鳥たちの声が、ずっと頭の上に聞こえていました。

噴火が作った独特の景観

体験記写真続いて今度は車に乗り、島を反時計回りに1周しながら、島の自然の見どころを訪ねます。途中、車道を走っているはずなのに、キー、キーと鳥の声・・・・・・。と思いきや、それは車のブレーキの音。借りたバンの調子がどうにも怪しいので、もしやこれは全島避難のあいだもずっと島に置いてあった車では、とメンバーの一人が漏らすと、「いや、観光解禁に合わせて本土から運んできた車でしょう」と山本さん。島に置いておいた車は、酸性の火山ガスにやられて噴火後1ヶ月でバッテリーが上がり、3ヶ月でエンジンがだめになってしまったのだそうです。

今朝ほど到着した三池港を過ぎると、海岸沿いにお碗を逆さにしたようなこんもりと黒い山が見えてきました。三七山と呼ばれるそれは、昭和37年の噴火で一晩でできた溶岩の山。続いて、昭和15年の噴火でできたひょうたん山が現れました。このあたり一帯は、当時の噴火で流れ出た溶岩で、山肌もゴツゴツと黒く覆われています。

屋根だけ見える神社?!

体験記写真車での通過のみ許可されている高濃度地区を過ぎ、拡幅工事が進む海岸道路に差しかかると、「椎取(しいとり)神社も見ていきましょう」と山本さんが車を寄せました。降りてみると、広がるのはすっかり立ち枯れたスダジイの林。しかも、そこそこ中堅といった感じの幹の太さからすると、木の背丈が妙に低い・・・・・・。と、林の奥に見えるのは、すっかり地面に埋まり屋根だけ顔を出す神社のほこら。足元に横たわるのは、鳥居のてっぺんの赤い丸木・・・・・・?

「2000年の噴火で降った火山灰で、神社が埋まってしまったんです」

なんと!とすると、スダジイも本当はもっと背丈があったけれど、根元が灰で埋まったから背が低く見えるということ?!

噴火で降った火山灰の量に圧倒されつつ、あらためて眺めてみると、その表面はシダなどのさまざまな種類の下草で覆われはじめていました。

火山灰の上にも植物は育つ---。山本さんによると、火山ガスがなくなれば、ここも以前のようなスダジイの森がいずれは復活するのだそうです。「たぶん100年ぐらいかかると思いますが」。

そうそう、さっき歩いた大路池の森だって、幾重にも重なる火山灰の層に、木や草たちがその根を下ろしていたのでした。三宅島の森は、長い年月をかけて、火山と共存しながら育まれているのです。

薬師堂散歩

体験記写真さらに車を走らせ、大路池と並ぶバードウォッチングポイント、薬師堂の森に向かいました。島の北西部、火山ガスの影響をほとんど受けていないこの地域では、噴火などあったのだろうかとつい思ってしまうくらい、まばゆい緑が山を覆っています。ついさっき見てきた椎取神社の光景を思い出すと、火山ガスを運ぶ風向きという「運」に、自然の無常をあらためて感じてしまいます。

薬師堂は、大路池周辺よりも暗く鬱蒼とした森に囲まれていました。木漏れ日が細く差しこむ小道は、時代ものの映画のロケにぴったりといった雰囲気。

この森も、足を踏み入れるとさまざまな鳥のさえずりに迎えられました。ミゾゴイ、カラスバト、アカコッコ、ヤマガラ---珍しい野鳥たちが、巣材探しにあちこちの枝を飛び交う姿も見ることができました。

野鳥がこんなに身近に見られる環境は、どう考えても貴重なのだろうなあ。

自然の鼓動を感じる島

体験記写真明治42年、伊豆諸島で最初の灯台が設置されたという伊豆岬を通り、さらに西に下っていくと、またひとつ、過去の噴火の爪あとに出くわします。昭和58年の噴火で溶岩に埋まった、阿古温泉の集落約400戸と阿古小学校。このときの噴火のことは、通っていた練馬区の中学でも募金活動などやったためよく覚えています。

黒く固まった溶岩から上の階の窓と屋根だけが頭を出す小学校の校舎。しかしここでも、溶岩の上に最初に芽を出すといわれる植物・オオバヤシャブシが、ところどころに小さな緑の茂みを形作っていたのでした。

切り立つ岩に丸い穴が2つくり抜かれ、そこから波がざぶざぶ押し寄せる絶景、メガネ岩を見学し、再び大路池まで戻ってきました。時すでに夕方。暮れていく空に黒いツバメが舞い、エメラルド色の池の水面は、朝とは違う静謐さをたたえていました。体験記写真

数十年に一度の周期で噴火を体験してきた三宅島。火山と共生する島の自然は、「再生」というゆるやかなサイクルのさまざまな段階を、島のあちこちに具体的な姿で見せてくれていました。

ダイナミックな自然の鼓動が脈打つ島。また来なくっちゃ!


体験記写真

三宅島に行った日:2005年4月21日 天気:晴れ

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